美術科彫刻専攻卒業生【酒井華さん】日展特賞を受賞









本学の美術科彫刻専攻卒業生、酒井華さんの作品『テディベア』が、第11回日展の彫刻部門で最も優秀な作品に贈られる賞、特賞に選ばれた。
酒井さんは専攻科1年生の際にも第9回日展で特賞を受賞しており、今回で二度目の受賞となる。明治40年から続く日本美術界の発展に貢献し続けてきた日展に若くして選ばれた酒井さん。作家としてのこだわりや、作品作りの苦悩を伺わせていただいた。
本学の美術科に進んだきっかけ。
小さい頃から絵を描くことが好きで更に絵が上手くなりたいと思い、美術関係の大学の進学を希望していました。高校で美術の先生に勧められて大分芸短に興味を持ったことがきっかけです。当時、私の一つ上の先輩が大分芸短に進学していたので、私も大分県立芸術文化短期大学に進学しました。
1年生後期から彫刻を始められた酒井さん。高校では油画を描いており、芸短では日本画、油彩画、デザインと学べる中でなぜ造形、そして彫刻を選んだのか。始まりは『スランプ』だったそう。
短大に入学してから周りの学生達が日々作品制作をしていく中、自分の描きたい作品と自分の技術にギャップができて、思うように絵が書けずスランプになってしまいました。
立体系を扱う彫刻専攻であれば一旦絵を描くことから離れられるし、人体塑造の授業で筋肉や骨格の構造も学べるので、スランプが治って自分が絵を描きたくなった時に彫刻専攻で学んだことが活かせるかもしれないと考え彫刻を専攻しました。
造形専攻1年時、彫刻作品「ルームウェア」で日展に初出品し、学生ながら見事特賞に選ばれた。出品にあたってのきっかけは、当時の彫刻専攻指導講師の一言。
以前から公募展に彫刻作品を出品したいと考えていたところ、卒業制作で制作した作品を白石先生から『日展に出品してみたらどうですか?』と提案していただきました。
大分県立芸術文化短期大学の彫刻専攻の先生である白石先生は、日展の会員であり、日頃から白石先生の作品を見ていて、私も日展に出品したいと思った事がきっかけです。
白石先生:日展だけではなく、様々な公募展への出品を勧めました。
中でも日展の彫刻は、人体具象彫刻の多様な表現を追求している作家がほとんどであり、酒井さんの作品や取り組みに合うと思いました。同世代だけではなく、大ベテランの先生方と同じ会場で作品を並べる経験は、素直に吸収して自分の力にできる酒井さんにとってとても良い刺激や影響を与えると思い、出品先候補の一つとして提案しました。
第11回日展応募作品「テディベア」を制作した時のエピソード。
今まで作った作品の中で一番沢山の人にお手伝いしていただきました。この作品はテラコッタという土を成型し窯で焼いて制作したのですが、土という素材は重く、手のひらサイズでも焼成前の水分を含んだ粘土は1~2kg程あります。 その土で制作した焼成前の作品を製作室から窯が数十メートル離れている窯まで大学の皆に協力して貰って一緒に運びました。総重量100kg以上あり、本当に重くて運ぶのが大変でした。
他にも内ぐり(軽量化、割れ防止の為に未乾燥の柔らかい作品の中身を刳り抜く作業)、作品運搬、窯出し、修正、などの数々の工程で彫塑の先生、筑波大学の学群生、同級生、院生の先輩方。体育科の学群生や野球部の方達、20 人以上の人たちの知識や力をお借りしました。忙しい中制作に協力して頂いた皆さんに感謝しています。
日展特選の受賞は「第9回日展 ルームウェア」に続いて二度目。筑波大学大学院進学後のプレッシャーもある不安の中で、特選に選ばれたと聞いて安心と喜びをひしひしと感じたそう。
酒井さんの彫刻は「ルームウェア」しかり、「テディベア」しかり、(第10回日本美術展覧会無鑑査出品の)「ブランケット」や、(専攻科卒業制作の)「布団」でも、柔らかいものを主として扱っているところが印象的。彼女のこだわり部分なのだろうか。
穏やかさや安心感を内包した作品が好きなので、自分が見て穏やかな気持ちになれる作品を心がけて作っています。ですから作っていて一番楽しい、好きな部分は服などの布の部分ですね。布団やぬいぐるみの様な落ち着きや安心感のあるモチーフを用いて鑑賞者の方に共感して頂けるように作品の表現手法を追求することが目標です。
白石先生:彼女の作品は「布」への愛情が溢れていて、見ていて気持ちがよいほどです。酒井さんは人体で自己表現しているのではなく、布を通して自己表現しているのではないかと感じています。
素直で能動的にコツコツ制作できる本人の気質が、粘土の土付けの痕跡からも分かるほど、作品からにじみ出ているのも魅力の一つだと思います。
大人から子供まで共感できる日常の安心感を作品に落とし込む酒井さんの作品は、特賞受賞理由の中でも『おおらかなフォルムと、人物の細部の表現に造形の豊かさが感じられる』と評価されている。
これからも制作を続けていきたいと願う彼女が一番大事にしていることは『楽しんで制作すること』
最後には、『好きなラジオや音楽を聴いたり、好きなお菓子食べながらでもいいから作品制作を楽しんでください』と学生にアドバイスを送ってくれた。
好きなものに包まれてリラックスした状態で作品に向き合うことで、暖かで柔らかな彼女の素敵な作品が生まれるのかもしれない。今後も芸短卒業生の輝かしい成長と発展を期待せずにはいられない。